「がん患者・家族の心を救う サイコオンコロジー(精神腫瘍学)の現状と展望」(3/3) がんとこころの基礎知識とは

 今回は、(3)がんとこころの基礎知識 の前半部分の講演内容を掲載します。

(3)がんとこころの基礎知識
 (3-1).がんと心、(3-2).ストレスと上手な付き合い方、(3-3).家族が病気になったとき、家族はどうしたらいい?の3点を詳しく説明します。
 
(3-1).がんと心
 ストレスとは、ある出来事(ストレッサー)や、その出来事を経験したことで生じる心身の反応のこです。がんが疑われたときや診断、病状の説明、治療の経過、 再発や転移など様々な出来事を経験すると、私たちは、不安や落ち込み、悲しみや絶望感を感じ、眠れなくなったり、食欲がなくなり食事が喉を通らなくなるなど、心も体も大きく動揺します。
 一方で、私たちは、ストレスを受けて体調を崩しても、 一定の休息をとれば、もとの状態に回復する力(ホメオスタシス)も持っています。この力が十分に発揮できるように、ストレスを上手くコントロールすることが大切なのです。

(3-2). ストレスと上手な付き合い方

(3-2-1)がんによるストレスの基礎知識
 病気になったとき、心の変化とどう付き合えばいいのでしょうか?

 ストレスは悪い面ばかりではありません。ストレスの研究者ハンス・セリエ博士によると、ストレスは「人生のスパイス」です。つまり、ストレスという適度なスパイスがあるからこそ、私たちは人生をより料理でき、自分を向上させながら生きていけるのです。たとえば、「疲れ」というストレスを感じなければ、働きすぎて体を壊してしまいます。また、「悔しさ」を感じなければ努力することもできません。「不安」を感じなければ、どんどん危険な道にすすんでいくかもしれません。

 ストレスをコントロールする上では、「ストレスをなくす」のではなく、「ストレスと上手く付き合う」ことが大切なのです。


(3-2-2)適応障害・うつ病
 がんの告知を受け心も体も大きく動揺し、一時的に日常生活を送ることが困難になったとしても、ホメオスタシスのおかげで時間とともに、回復していきます。しかしながら、あまりにストレスが強い場合や長期間ストレスにさらされていると、ホメオスタシスが崩れてしまい、回復する力が十分に発揮されない場合があります。

 ここでは、代表的な2つのストレス性の疾患を紹介します。このような場合には、患者さんの生活の質が低下したり、がん治療に影響が出たりすることがありますので、注意が必要です。

(3-2-2-1)適応障害
 がん治療を受けながらの生活は、これまでの生活と一変した環境になります。このように新しい環境に慣れることができず、頭痛、動悸、体のだるさ、不眠などの体の症状や、落ち込み、不安、集中力の低下、意欲の低下などの心の症状のために、日常生活に支障をきたした状態を適応障害と言います。うつ病と似た症状ですが、原因(ストレッサー)がはっきりしていたり、原因から離れると普通に過ごすことが出来る点が大きく異なります。

 

 

(3-2-2-2)うつ

 特に原因が分からないのに、体の症状や心の症状 2週間以上続く場合には、うつ病の可能性が考えられます。

(3-2-3)ストレスと上手な付き合い方

 病気になったとき、心の変化とどう付き合えばいいのでしょうか?
 ストレスは悪い面ばかりではありません。ストレスの研究者ハンス・セリエ博士によると、ストレスは「人生のスパイス」です。つまり、ストレスという適度なスパイスがあるからこそ、私たちは人生をより料理でき、自分を向上させながら生きていけるのです。たとえば、「疲れ」というストレスを感じなければ、働きすぎて体を壊してしまいます。また、「悔しさ」を感じなければ努力することもできません。「不安」を感じなければ、どんどん危険な道にすすんでいくかもしれません。

 

 ストレスをコントロールする上では、「ストレスをなくす」のではなく、「ストレスと上手く付き合う」ことが大切な のです。

 

(3-2-3-1)自分で取り組む心のケアとしては、次のようなものがあります。

●人に相談する
 ・身近な信頼できる人に話を聞いてもらい、愚痴をこぼす
 ・患者会やサポートグループに参加する
 ・経験者に相談する
 ・主治医・担当医・看護師に相談する
 ・精神科や心療内科で相談してみる
心のなかを整理する
 ・疑問や心配事、不安に思っていることを紙に書き出す
 ・今考えるべきこと、後で考えるべきことをわける
 ・正しい情報を集める(入手先の紹介も含める)
●病気を忘れる時間を作る
 ・仕事や家事をする
 ・趣味に打ち込む
 ・散歩をする
 ・体を動かす
 ・買い物をする
 ・好きなテレビや映画を見る
 ・読書をする
●いつもとは違う考え方をする
 ・自分が心配していることが実際にどれくらいの可能性で起こるのか冷静に考えてみる
 ・心配事、不安に関連した考えを批判的に眺めてみる
 ・家族、友人、他の患者の言葉を思い出してみる
 ・同じ状況におかれた家族や友人にどのようにアドバイスをするか考える
 ・「5年後、10年後に同じ体験をしたら?」あるいは「元気なときの自分ならどう考えるのだろう?」と問いかけてみる
 ・過去のつらい状況を乗り越えるのに役立った考え方を思い出して応用できるか考えてみる
●いつもとは違う対処法方を試す
 ・過去のつらい状況を乗り越えるのに役立った方法を思い出して試してみる
 ・経験者や他の患者さんがおこなっている取り組みを試してみる
 ・できるだけ頭を自由にして思いつくまま対処法を考えていく(→問題解決療法)
●受け入れる
  病気になると、不安は誰もが感じるもの
  落ち込みや不安になっている自分を責めない
●心をリラックスさせる方法を身に付ける

  →漸進的筋弛緩法や呼吸法を講演では紹介されました。

3-2-3-2専門家と取り組む心のケア

 患者さんやご家族と一緒に心のケアを行う専門家がいます.

 病院によって「精神科」「心療内科」「精神腫瘍科」「サイコオンコロジー科」など標榜する診療科が異なります。あるいは「緩和ケアチーム」「支持療法チーム」「リエゾンチーム」というサポートチームに所属していることもあります。

 医師(精神科医/精神腫瘍医/心療内科医)や専門看護師、臨床心理士が患者さんやご家族からお話を伺い、お困り事に応じて対応を考えていきます。カウンセリングが基本になりますが、主には医師が薬を使った治療を行い、臨床心理士がお薬を使わない治療(心理療法/リラクセーション)を担当します。認定看護師・専門看護師は患者さんが生活しやすいようにケアや生活の工夫の相談を受けています。

<質問> どんな時に相談に行くといいですか?
<答え> 以下のようなことでお困りの時にはご相談ください。
    ○うつ病/適応障害の症状にあてはまる
       ―何をしても気分が晴れず、1日中悲しい気分や絶望感が続く
     ―いつまでたっても、今まで楽しめていたことが楽しめない
    ○抗がん剤の後のだるさや吐き気が長引いてしまう
    ○自分なりに色々と工夫をしても、元気が出ない
    ○自分あるいはご家族で取り組める心のケアについてもっと知りたい
    ○ストレスについて知り自分で対処できるようになりたい


3-2-4薬物療法
抗うつ薬
•効 果 「気分の落ち込み」、「興味関心の喪失」、「気力の低下」、「体がだるい」、「食欲がない」、「一日中イライラして落ち着かない」「一日中不安で仕方がない」などの症状を改善する目的で使用します。
•副作用 飲み始めに「軽い眠気」「吐き気」「便秘」「喉の渇き」が比較的よく見られますが、徐々におさまります。程度が軽ければ、飲み続けてください。
• 抗うつ薬の効果が出るまでに2〜3週間かかりますので、副作用が出たからと言って飲むのをやめてしまうと、せっかくの薬の効果が得られなくなってしまいます。

抗不安薬
•効 果 「不安でそわそわして落ち着かない」「考えたくない事が頭から離れない」「胸がドキドキする」「息が苦しい」などの症状を和らげる目的で使用します。
•副作用 「眠気」「ふらつき」「足腰に力が入りにくい」「物忘れ」が比較的よく見られます。
•ほとんどの場合、お薬の種類や量を調整することで改善できます。

睡眠導入剤
•効 果 「工夫をしてもなかなか寝つけない」「夜中何度も目が覚める」「早朝、暗いうちに目が覚めてしまう」などの症状を改善する目的で使用します。 
•副作用 「眠気」「ふらつき」「足腰に力が入りにくい」「物忘れ」が比較的よく見られます。
•ほとんどの場合、お薬の種類や量を調整することで改善できます。

3-2-5)心理療法

 患者さんが抱えている心理的負担の軽減を目標に、治療者と患者さんが協力しあう治療法です。患者さんが本来持っているストレスの耐性を高め、心のバランスを整えるお手伝いをします。
3-2-6)リラクセーション
 リラクセーションとは、自分の心身を意識的にリラックスさせるテクニックです。 リラックス状態を得ることで、不安・緊張を軽減させたり、寝つきをよくさせたり、体のだるさや痛みを間接的に和らげるなどの効果があります。化学療法中の吐き気や不快感にも効果があると言われています。
●筋弛弛緩法 心が緊張しているときには体の筋肉も緊張しています。逆に、体が緊張したままで心をリラックスさせることは難しいです。そこで、体がリラックスした状態を先に作ることで心をリラックスした状態へと導く方法です。 体の一部(たとえば、手や肩)の筋肉に意識的に力を入れ、その後に力をスッと抜きます。これを徐々に、手や肩から顔面や足など全身に広げていきます。 リラックス状態を体感するには、少し練習が必要ですが、一度覚えると一人でいつでもどこでもおこなえるようになります。
●呼吸法 心が緊張しているときには呼吸が浅く、荒くなります。逆に呼吸が浅く、荒いと「体に何か大変なことが起こっているのでは」と不安になり心がリラックスできなくなります。そこで、呼吸を整えることで心をリラックスした状態へと導く方法です。 いつもよりもゆっくりしたペースで(たとえば、頭の中で「1,2,3,4」と数える)鼻から息を吸います。約1秒息をとめ、その後いつもよりゆっくりしたペースで(たとえば、頭の中で「5,6,7,8,9,10」と数える)で口から息を吐きます。 ご自分の体と心がゆったりできるペースをつかむまでには、少し練習が必要ですが、一度覚えると一人でいつでもどこでもおこなえるようになります。


3-2-7)生活についての相談
 体や心の状態に応じて、日常のケアや生活での工夫の方法を一緒に検討します。 相談内容によって他の専門家を紹介したり、治療チームが円滑に支援できるように橋渡しも行います。
●心の専門家の紹介   →職種の紹介と内容:カウンセリングが基本で医者が薬物療法、心理士が心理療法を担当します

  (3-3). 家族が病気になったとき、家族はどうしたらいい?
3-3-1)がん患者の家族
 がんと告知をされると、家族全体に変化が生まれます。ご家族の精神的な問題に限らず、患者さんの身の回りのお世話という現実的な問題、家族の中での役割の変化、経済的な問題などさまざまです。
 そのような中で、ご家族は、「患者さんとどのように接したらいいのか」と戸惑われ、「患者さんが頑張っているのに、家族が弱音を吐いてはいけない」とご家族自身が精神的負担を感じられている場合が多いです。
3-3-2)家族ができる心のメンテナンス3か条
1.患者さんの話に黙って耳を傾ける
 患者さんが話をしていると、ついつい口をはさみたくなるものですが、そこは少しこらえて、患者さんの話に耳を傾けてはいかがでしょうか。患者さんの話を黙って聞いてあげることが患者さんの気持ちの理解や共感につながり、患者さんの頑張る力を引き出します。
 患者さんから「つらい」という言葉が聞かれると家族が元気づけようと「そんなこと言わずに頑張ろうよ」と口をはさむことはよくあります。そうすると、患者さんは本当の気持ちを話せなくなります。このような場合には、何がつらいのか患者さんから聞き、つらさを共有してあげることが患者さんの頑張りにつながることがあります。
 
2.病気や死に関する話題について率直に話し合う
 患者さんがご自分の病気や死に関する心配を口にしたときには、何が心配なのか、将来の計画をどうしていきたいと考えているのかなどを率直に話し合い、患者さんの意思を尊重するために家族に何ができるかを考えてみてはいかがでしょうか。患者さんの心配を一緒に考えてあげることは、患者さんの安心感につながります。

3.これまでどおりに接する
 病気をきっかけに特別扱いされることで患者さんにとっては家族の中での孤立感を強める場合があります。担当医に、現在の身体状況で何が出来て何が出来ないかを確認したうえで、患者さんができること、やりたいことを一緒に相談していきましょう。時には、ご家族の手助けも必要となるでしょうが、これまで通りのご家族の対応が患者さんの生きがいにつながります。
3-3-3)ご家族の心のメンテナンス
 がん患者さんの心のメンテナンスを行う上でご家族のメンテナンスも必要不可欠なのです。

 「自分の心のメンテナンスが患者さんの治療を支える」と考えて、ご家族自身も積極的に心のメンテナンスを見直してみましょう。

●ご家族のストレスに気づきましょう  ストレスによる心と体の反応がご家族にも見られることがあります。 
 まずは、ご家族がご自分のストレスに気づくことが大切です。
●ご家族もストレスと上手に付き合いましょう  ストレスとの上手な付き合い方を参考に、ストレスをコントロールしていきましょう。